お線香をあげるときのマナー|実は宗派で作法が違う?

身近な人が亡くなった際、葬儀や法要で行う大切な行為のひとつに「お線香をあげる」儀式があります。お線香は古くから仏教を中心に供養の意味合いをもって焚かれてきましたが、その作法やマナーは宗派によって異なります。本記事では、基本的な手順から注意点、宗派ごとの違いまでを詳しく解説します。
お線香のマナーの概要
お線香をあげる行為には、故人を偲ぶ供養の思いが込められています。仏教の教えでは、お線香の煙を通じて故人や仏様へ感謝の意を伝え、また自分自身の心を清めるという意味合いがあります。ここでは、お線香の役割と基本的なマナーの重要性に触れます。
お線香の役割と意味
仏教の考え方では、お線香は単なる「香り」ではなく故人の食べ物として扱われる重要な供養の手段とされています。特に四十九日までの期間は、お線香を絶やさず焚くことで故人に食事を提供していると考える地域や宗派もあります。また、お線香の香りによって自身の心を清める効果があるともいわれ、故人と向き合う心構えを正すための大切な儀式でもあるのです。
さらに、お線香から立ち上る煙は故人や仏様との心の懸け橋とも解釈されます。煙が思いを運び、お互いを繋ぐ存在として大切にされているのです。これらの意味を踏まえると、お線香をあげるマナーを知っておくことは、単に作法に沿うだけでなく、故人への敬意と自分自身を律する心構えにもつながります。
お線香の基本手順
まずは、どの宗派でも大切な共通手順を知っておくことが肝心です。ここでは標準的な流れを示し、具体的なポイントを紹介します。
1. 準備と仏壇への移動
お線香をあげる前には、以下の準備を行います。
- 数珠の用意:左手にかけ、房が下に来るように持つ。
- 仏壇の前に進む前に一礼し、静かに仏前へ向かう。
このとき、騒がしく動いたり、慌ただしい動作は避けましょう。故人や仏様に対して敬意を表すためにも、静かな所作が大切です。
2. 合掌と点火
仏壇の前に座ったら、遺影や仏壇に向かって一礼しましょう。その後、マッチやライターでろうそくに火を灯します。直接お線香に火をつけるのはマナー違反とされています。必ずろうそくを介して火をとります。
3. お線香に火をつける
ろうそくの火をお線香の先端に移し、先端からしっかり火が回ったら口で吹かず、反対の手であおいで火を消します。このとき、口で吹き消すのは不浄とされることが一般的です。
4. お線香を立てる(または寝かせる)
火を消したら香炉にお線香を立てて煙を立たせます。浄土真宗の一部ではお線香を折って横に寝かせるなど作法が異なるため、宗派を確認することが大切です。基本的には香炉の中央に立てるか、置く位置が指示されている場合はその位置に従ってあげます。
5. おりんや数珠、合掌の作法
お線香を立てたらおりんを一度だけ鳴らすのが一般的ですが、浄土真宗ではおりんを鳴らさない場合もあります。再度合掌し、故人や仏様に気持ちを捧げましょう。最後に深く一礼して終わります。
6. 火の後始末
ろうそくなどに火を残したままにしておくのは危険です。必ず火を消し、仏壇から下がる際は静かに一礼して場を離れましょう。後始末までがマナーの一環です。
宗派によるお線香をあげるマナーの違い
お線香のマナーは、宗派によって細かな違いがあります。特に本数や香炉への立て方が異なるため、あらかじめ確認しておくのが望ましいでしょう。
天台宗・真言宗
お線香3本を立てます。下記のように、位置にも特徴があります。
- 1本を手前側、2本を奥側にまとめたり、左右に分ける方法もある。
- おりんを鳴らすタイミングは、一般的にお線香を立てた後1回鳴らす。
浄土宗
お線香は1本を香炉の中央に立てることが基本です。複数の場面で使う場合は1~3本とすることもありますが、特に厳密な決まりはありません。重要なのは、故人に対して敬虔な思いを持って供えることです。
浄土真宗本願寺派
お線香を1本折り、2本にして同時に点火したうえで火を左側にして香炉に寝かせます。お線香を立てるのではなく、寝かせてあげるのが特徴です。なお、この宗派ではおりんを鳴らさないことが一般的とされています。
真宗大谷派
浄土真宗本願寺派と同様に、基本的にはお線香を折って寝かせる作法です。1~2本を折り、2~4本にして香炉に横に置くケースが多いですが、地域や寺院の慣習によって差があるため注意が必要です。
臨済宗・曹洞宗・日蓮宗
これらの宗派ではお線香を1本、もしくは3本立てることが多いとされています。一般的には1本の場合、香炉の中央に立て、3本の場合は3本を逆三角形に立てるなど、細かな流儀があります。
お線香をあげるときの注意点とマナー
お線香の本数を守るだけでなく、実際にあげる際の振る舞いにも気を配りましょう。些細な行為が失礼にあたるような場面もあるため、注意点を押さえておくことが大切です。
後からお線香をあげる人への配慮
弔問や法要では、複数の参列者がお線香をあげることがあります。香炉が狭い場合、先にお線香をあげる人は極力香炉の中央を避け、後の人が立てやすいように少し奥側や手前側に配置してスペースを空けておくと親切です。
お線香への点火はろうそくを介す
お線香のマナーでよく指摘されるのが、直接ライターやマッチで火をつけないことです。これは、ろうそくの炎を灯してからお線香へと火を移すのが正式であり、仏前への礼儀でもあるからです。
火を消すときは口で吹かない
口で吹き消す行為は、仏様や故人への礼を欠くと考えられています。可能であれば、うちわや手であおいで静かに火を消してください。
自宅のお仏壇でお線香をあげるマナー
弔問先やお寺だけでなく、日常的に自宅の仏壇でお線香をあげることもあるでしょう。基本の流れは同じですが、いくつか注意しておきたいポイントがあります。
自宅ならではの落ち着いた環境づくり
自宅の仏壇であげる場合は、騒音や余計なものを片付け、落ち着いた空間を整えることを心がけましょう。余計な物音や動作は故人の安らぎを妨げると考える方もいます。
最低限の手順を守る
以下のステップを守ると、失礼なくお線香をあげられます。
- 遺影や仏壇への合掌や一礼
- ろうそくを灯し、お線香に火を移す
- 火を手であおいで消す
- 香炉に立てる、もしくは寝かせる
- 必要に応じておりんを鳴らし、再度合掌
- ろうそくの火を消す
お墓参りでのお線香をあげるマナー
自宅だけでなく、墓前でもお線香をあげるシーンは多いものです。お墓参りでのお線香のあげ方にも基本的なルールがあります。
まず、お墓参りの際には周囲の掃除をするところから始めましょう。雑草や落ち葉などを取り除いた後、墓所に向かって一礼し雑巾などで墓石を拭くなどの清掃を行います。きれいにしたら、ろうそくを灯してからお線香に火を移し、香炉が設置されていればそこに立てます。もし香炉がなければ、市販の香皿や灰皿を用意すると良いでしょう。
墓前でも火は口で吹き消さずに手やうちわであおぎ、最後に合掌して黙祷するのが一般的な手順です。また、周囲の人々の邪魔にならないよう気をつけながら行いましょう。お墓参りは故人との対話と考えられる大切な時間でもあるため、ゆったりとした心持ちで行動することが望まれます。
宗派選びが分からないときの対処
お線香のマナーは宗派よって異なると知っていても、実際どの宗派なのかわからない場合もあります。そんなときに役立つ対処法を紹介します。
お寺や菩提寺に確認する
故人や家の菩提寺がどこなのかを確認し、直接尋ねるのが最も確実な方法です。お付き合いのあるお寺であれば、詳細な作法や地元の習慣なども含めて教えてもらえます。特に浄土真宗では作法が他の宗派と大きく異なるため、事前情報がないと戸惑いがちです。少しでも不安があるなら、お寺に直接問い合わせてみましょう。
周囲の人に相談する
地域の習慣は、他の参列者や近隣の方がよく知っている場合があります。参列者同士で情報交換すれば、思わぬところで知識を得られるかもしれません。恥ずかしがらずに周囲に尋ねてみると、後々トラブルを避けられます。
お線香をあげるマナーと現代の変化
核家族化や住宅事情の変化によって、昔ながらの作法が変わりつつあるのも現状です。集合住宅などで煙や香りに気を遣う場合が増え、近年ではお線香の代わりに少煙タイプや無香料のお線香を使用する人も少なくありません。
さらに、ろうそくの炎を使わず、安全性の高い電池式のろうそくを使用するケースも増えてきました。これらの工夫は時代の流れに合わせた対応であり、決してマナー違反ではありません。大切なのは、故人や仏様を想い供養する心持ちです。その中で無理のない方法を選ぶことが、現代における新しい形のマナーといえるでしょう。
お線香をあげるマナーまとめと地域差
日本各地には、風習や歴史的背景などから微妙な違いが存在します。同じ宗派でも地域や寺院によって指導が違ったり、慣習が異なることは珍しくありません。極端な例では、かなり昔から伝わる伝統的な形式を重んじるお寺もあれば、現代的なライフスタイルに柔軟に合わせてくれるお寺もあります。
実践的なポイントとよくある質問
最後に、お線香のマナーにまつわる実践的なポイントや、よくある質問を見ておきましょう。
1. ライターしかない場合はどうすればいい?
近くにろうそくがない場合は、やむを得ずライターで直接火をつけることがあるかもしれません。しかし、本来はお線香に直接ライターで火をつけるのは控えられています。もし時間や道具の都合でやむを得ないときは、できるだけ慎重に火を移し、消火の際は騒がしくならないよう配慮しましょう。
2. お線香をあげるタイミングはいつがいい?
日常的に行うのであれば、朝・昼・夕方など一定の時間を決めておくと習慣化しやすく、故人を思い出すきっかけにもなります。特に宗派によって厳密な時間指定があるわけではありません。法事など特別な行事の場合は、式の進行に合わせて住職や係の人の指示を待つのが基本です。
3. 数珠は必ず必要?
数珠は仏具の一種であり、本来はお経を唱えるときに手に持つ道具です。お線香をあげる際にも数珠を持つのが正式なマナーとされていますが、必須ではないとする考え方も増えています。ただし、正式な場や法要では数珠を用意しておくとよいでしょう。
4. お線香の種類や香りにこだわる必要は?
一般的には白檀や沈香を主体としたお線香が多く使われますが、香りのきつさを嫌う方もいるため、少煙タイプや微香タイプを使うケースもあります。大切なのは、故人や周囲の方への配慮です。多くの人が集まる場では刺激の少ないものを選ぶと良いでしょう。
5. おりんを鳴らす回数は?
多くの宗派では1~2回が基本です。しかし浄土真宗ではおりんを鳴らさないところもあり、意外と宗派によってさまざまです。無理して鳴らす必要はなく、事前に確認するか周囲の様子を見ながら合わせるのが無難でしょう。
まとめ
ここまで、お線香をあげる理由や基本手順、宗派ごとの違い、そして実践的な注意点を紹介してきました。供養のひとつとして大切な行いであるお線香ですが、宗派や地域によっては作法が異なり、戸惑うこともあるかもしれません。しかし大切なのは故人や仏様への思いやりであり、正しいマナーを理解して実践することで、より丁寧な供養に近づくことができるでしょう。
- お線香は故人や仏様へ思いを伝える大切な橋渡しとなる
- 宗派によってお線香の本数や立て方が異なるため事前確認が望ましい
- 火の扱いや後始末に気を配り、静かに合掌して供養の心を示す
今後、葬儀や法要でお線香のマナーに迷ったら、ぜひ本記事を参考にしてみてください。正しい作法を押さえながらも、自分の気持ちを大切に、故人とのつながりを感じる時間を過ごしていただければ幸いです。

監修 角田(株式会社葬儀のこすもす)
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