故人の預貯金で葬儀費用を支払うには?手続きと注意点

身近な方を亡くされ、いざ葬儀費用を準備しようとしたときに真っ先に思い浮かぶのが「故人の預貯金を使えないか」という点です。実は、銀行口座が凍結されたり相続の手続きが絡んだりと、故人の預貯金を葬儀費用に回すにはさまざまな注意点があります。本記事では、葬儀費用を故人の預貯金から支払うための具体的な手続きとポイントについて詳しく解説します。
葬儀費用と故人の預貯金を使うメリット
葬儀には平均して100万円から150万円ほどかかるといわれています。大きな出費となるため、家族や親族で費用を負担するのは大きな負担です。そこで、亡くなられた方の口座にある程度の預貯金がある場合、それを葬儀費用に活用できるのは魅力的です。ここでは、葬儀費用を故人の預貯金で支払うメリットを簡単にご紹介します。
第一に、現金が手元に十分ない場合でも、故人の預貯金を用いることで経済的負担を軽減できます。第二に、故人の意図としても「自分の預貯金で葬儀をまかなってほしい」というケースは少なくありません。ただし、故人が亡くなると銀行口座が即時に凍結される恐れがあり、手続きなしに預貯金を自由に引き出すことはできなくなります。以下では、葬儀費用と故人の預貯金について深掘りしながら、実際の手続きや注意点を説明します。
故人の預貯金で葬儀費用を支払う方法の基礎知識
故人の預貯金を葬儀費用に充てる場合、相続財産の取り扱いという大きな問題があります。銀行にもそれぞれのルールがあり、加えて民法の相続に関する規定には注意が必要です。ここでは、基礎的なルールを確認しましょう。
銀行口座はなぜ凍結されるのか
故人が亡くなった事実を銀行が確認すると、相続に関わるトラブルを避けるため、口座が凍結されます。誰が正当な相続人なのかを銀行側が確認しなければ、無断で引き出されてしまうリスクを防止できないからです。凍結後は原則として口座からの預貯金引き出しや振り込みができなくなり、相続の手続きが終わるまで解除されません。
口座凍結前なら「預貯金の引き出し」は可能?
一般的に、銀行が故人の死亡を認知する前であれば振り込みやATMでの引き出しが可能な場合もあります。しかし、法的には相続財産の処分行為とみなされることがあるため、後々トラブルに発展する恐れがある点には注意すべきです。特に、他の相続人の不信を招きやすい行為であるため、相続放棄を検討する場合も含めて慎重に判断しましょう。
故人の預貯金から葬儀費用を出す際の手続き
実際に、故人の銀行口座から葬儀費用を支払うには、大きく分けて3つの方法が考えられます。銀行の仮払い制度、裁判所の仮処分手続きを利用する方法、そして正式な相続手続きを経る方法です。下記では、それぞれの特徴を解説します。
1. 仮払い制度(遺産分割前の預貯金払戻し制度)
2019年7月の法改正により、相続人の一部が直接銀行に請求して故人の預貯金の一定額を払い戻してもらうことができる「仮払い制度」が実施されています。これは、従来は家庭裁判所で仮処分の申請をしないと下ろせなかった預貯金を、よりスムーズに払い戻してもらうための制度です。他の相続人の同意も必要ありません。
ただし全額を引き出せるわけではなく、あくまでも一定の限度額までの救済措置です。具体的な金額は、「口座残高×法定相続分の3分の1まで」か「150万円」のいずれか低い方となるため、葬儀費用がそれを超えると焼け石に水という側面もあります。とはいえ、仮払い制度を利用することで、葬儀社への初期費用はまかなえる可能性が高いでしょう。
2. 仮処分の申請
仮払い制度の上限を超えて大きな金額が必要な場合、裁判所に「仮処分(預貯金債権の仮分割の仮処分)」を申し立てることができます。仮処分の申請には3つの要件が必要です。①「相続人の生活費や緊急的な費用負担として、預貯金を引き出さざるを得ない」②「遺産分割の審判または調停の申立てがなされている」③「他の共同相続人の利益を害しない」という条件がそろっていれば仮処分が認められる可能性があります。手続きはやや複雑で時間がかかるため、葬儀費用の支払い期日に間に合わないというケースもあり得ます。
3. 遺産分割協議後の払い戻し
相続手続きをきちんと進め、相続人全員の合意の下で「遺産分割協議書」を作成すれば、凍結された口座も解除され、自由に引き出しができます。ただし、協議には時間と手間がかかり、かつ相続人間の意見調整も必要なので、葬儀費用の支払いを急ぐ場合には間に合わないことも少なくありません。
相続税控除の対象になる葬儀費用
葬儀費用を故人の預貯金で支払う際は、相続の観点から「葬儀費用として相続税の控除対象になるか」を意識することも重要です。ここではどの経費が控除対象となり、どの経費が対象外なのかを紹介します。
控除対象となる費用
相続税の計算上、以下のような項目が葬儀費用として認められるとされています。
- ご遺体の搬送費用
- 死亡診断書の取得費用
- 火葬費用
- 通夜・葬儀に関する費用(葬儀会社への支払い)
- 僧侶へのお布施や戒名料
これらは、故人の預貯金でまかなわれるケースが一般的です。また、その用途が明確であれば、相続税控除の手続きも比較的スムーズに進むでしょう。
控除対象外となる費用
一方、初七日や四十九日などの法要、墓地や墓石の購入費用、香典返し、仏壇の購入費用などは通常の葬儀費用には含まれず、相続税の控除対象外となります。これらは葬儀後に長期的に発生する費用であり、相続税法上は区別して考えられています。
故人の預貯金を巡るトラブルと注意点
葬儀費用を故人の預貯金で賄おうとする場合、相続人同士でのトラブルが発生するケースも珍しくありません。以下では、よくあるトラブル例と注意点を紹介します。
他の相続人との意見不一致
葬儀費用は基本的に「故人のための支出」と考えられがちですが、相続人が複数いる場合は「勝手に引き出された」と感じる人が出てきてもおかしくありません。もしも自分の判断だけで多額の引き出しを行うと、「自分の相続分以上に使われたのではないか」と疑いをかけられる可能性があります。
円満な相続を実現するためにも、相続人全員に事前・事後を問わず説明を行い、最低限の同意を得ることが大切です。とりわけ、仮払い制度を使う場合は、後日清算の手続きをしやすくするために支払明細をしっかり保管しておきましょう。
相続放棄を検討する場合
故人の負債が大きいなどの理由により「相続放棄」を検討する場合には注意が必要です。相続放棄を行うと、プラスの遺産だけでなくマイナスの遺産も含めて一切相続しないことになります。しかし、故人の口座からお金を引き出してしまうと、「相続財産の処分があった」とみなされて相続放棄できなくなるおそれがあるのです。
相続放棄を真剣に検討するならば、高価な葬儀を行う前に専門家に相談し、葬儀費用をなるべく最小限に抑えることを考えてみましょう。なかでも、お布施や戒名などは金額の幅が広いです。家族の意向を尊重しつつも、後日の相続手続きを見据えて判断してください。
具体的な事例:Aさんの場合
ここでは、具体例として「夫を亡くしたAさん」のケースをご紹介します。Aさん(55歳)は夫を亡くし、相続人はAさん自身と30歳の長男Bさん、27歳の長女Cさんの3名です。夫には1,800万円の預貯金がありましたが、Aさん個人の手持ち資金はほとんどありません。夫の葬儀費用は150万円程度が見込まれ、早急に支払いが必要な状況です。ところが、長男や長女とは疎遠であり、協力を得ることは期待できないという問題を抱えています。
こうしたケースでも、2019年7月の法改正による仮払い制度を活用することが可能です。もし夫の口座残高が1,800万円あり、Aさんの法定相続分が2分の1であれば、その3分の1にあたる300万円と150万円とを比較し、「150万円」が仮払いの上限となります。この金額内であれば、家庭裁判所の仮処分を待つことなく銀行に直接請求して葬儀費用を賄えます。
ポイントは、引き出し後の費用をどう使ったか、明確にすることです。費用を葬儀に充当したという事実を証明できる領収書や請求書などをきちんと保管しておきましょう。後々、長男や長女から「勝手に引き出したのでは」と疑われた場合にも、明瞭な支出として説明が可能になります。
必要書類と銀行手続きの流れ
実際に故人の預貯金から葬儀費用を支払うため、銀行口座の凍結解除や仮払いを申請する際に必要となる書類や手続きの流れをチェックしておきましょう。
必要となる主な書類
銀行での仮払い制度や相続手続きにおいて、一般的に必要となる書類は以下の通りです。
- 故人の戸籍謄本・除籍謄本
- 相続人(仮払いを請求する人)の印鑑証明書
- 相続人(仮払いを請求する人)の身分証明書
- 葬儀費用の見積書や領収書
- 申請書(各銀行所定の用紙)
上記はあくまでも一般的な例であり、銀行や状況に応じて追加書類を求められることがあります。事前に銀行へ問い合わせるか、相続手続きに詳しい専門家に相談すると安心です。
仮払い制度利用の流れ
- 相続人が銀行の窓口に相談し、必要書類や手続きについて案内を受ける
- 死戸籍謄本や印鑑証明書などの必要書類をそろえ、銀行へ提出
- 銀行が仮払いを認めた金額を入金または支払いを実行
- 支払い後は、費用が葬儀に確実に使われた証拠を保存する
銀行の処理には日数を要する場合があるので、葬儀費用の支払い期日が迫っている場合はすみやかに行動しましょう。また、銀行によっては取り扱い方針が異なることもあるため、事前に電話などで確認するとよりスムーズです。
葬儀費用を故人の預貯金から支払う際のチェックポイント
ここまで、葬儀費用と故人の預貯金の関わりや手続き・注意点を解説してきました。最後に、実際に手続きを進める際に押さえておくべきポイントをまとめます。
1. 早めに銀行や専門家へ相談する
相続や葬儀費用に関連する法律や銀行の対応は複雑です。間違いやトラブルを防ぐためには、銀行や司法書士・弁護士などの専門家へ早めに相談することが大切です。葬儀社の担当者も、故人の預貯金の引き出しや相続手続きをしている場合があるので、参考意見を求めるのも良いでしょう。
2. 必要書類をそろえておく
故人の戸籍・除籍謄本や相続人の印鑑証明書などは必須の書類となります。早めに必要書類のリストを作成し、準備をすすめましょう。
3. 正確な費用管理と記録
仮払いの制度を使う場合も、銀行口座が凍結解除された後に全額を引き出す場合も、支払いの明細や領収書などの関連書類を必ず保管しておきましょう。特に他の相続人とのトラブルを防ぐためには、どのように費用が使われたのかを「客観的に示せる」状態にしておくことが大切です。
4. 相続放棄と葬儀の規模
借金などのマイナス財産を抱えている恐れがある場合、相続放棄を前提としているならば、高額な葬儀費用は問題となります。必要最小限で済ませる、葬儀費用を立て替えられる親族を探すなど、事前に対策を検討しましょう。
まとめ
故人の預貯金を使った葬儀費用の支払いは、遺族にとっては大きな経済的助けになる反面、相続という法律上の手続きや他の相続人との兼ね合いが絡むため、慎重な対応が求められます。銀行口座の凍結、仮払い制度の限度額、仮処分の手続き、相続放棄との関係など、多くのポイントを踏まえたうえで準備を進めることが理想です。
- 故人の預貯金は「相続財産」に該当し、勝手な引き出しはトラブルのもとになる。
- 2019年7月以降は仮払い制度が整備され、銀行に直接請求して最大150万円まで引き出すことが可能。
- 葬儀費用の支払いと相続放棄の関係に注意し、高額な葬儀を行う場合は専門家へ相談を。
- 相続税控除の対象となる費用・ならない費用を把握し、正確に申告手続きを進める。
故人の預貯金で葬儀費用を用意する場合は、早めに必要書類の準備と銀行への相談を行い、相続人全員が納得できる形で進めることをおすすめします。

監修 角田(株式会社葬儀のこすもす)
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