寝てばかりいるのは老衰のサイン?主な前兆やかかわり方について

あなたの大切な家族が、最近ずっと眠っているようで心配ですね。実は、高齢者が寝てばかりなのは、老衰が進行している可能性があります。この記事では、老衰による「寝てばかり」の症状の特徴や、看取りに向けての準備について詳しく解説します。今からできることを知って、穏やかで尊厳ある最期を迎えられるよう、一緒に備えていきましょう。
老衰とは何か?寿命に近づく高齢者に起こる自然現象
老衰とは、高齢になり寿命に近づくにつれて、身体の機能が徐々に低下していく自然現象を指します。病気やケガなどの特定の原因がなくても、加齢に伴い 臓器や筋肉の機能が衰えていくことで起こります。
老衰の特徴は、全身の機能低下が徐々に進行することです。脳機能の低下により意識レベルが下がったり、身体機能の低下により動作がスムーズにできなくなったりします。また、食欲不振や体重減少なども老衰の兆候の一つといえるでしょう。
老衰は個人差があり、一般的に80代以上で起こる
老衰が起こる年齢には個人差があります。もともとの体力や生活習慣、持病の有無などによって、老衰の始まる時期は人それぞれです。ただ、一般的には80歳代以上の高齢者に多くみられます。
はっきりとした老衰の診断基準はありませんが、多くの医師は「85歳以上で特段の疾患がない方は老衰」と判断しているようです。老衰は徐々に進行するため、いつから老衰が始まったのかを特定するのは難しいのが実情です。
老衰による死亡(老衰死)の割合は年齢とともに増加
厚生労働省の人口動態統計によると、老衰による死亡は80歳代から増加し始めます。「80~84歳」で死因の5位以内に初めて登場し、「85~89歳」では死因3位、「90~94歳」では死因2位となっています。さらに、「95~99歳」と「100歳以上」ではどちらも死因の1位が老衰となっています。
年齢階級 | 老衰による死亡の順位 |
---|---|
80~84歳 | 死因5位以内に登場 |
85~89歳 | 死因3位 |
90~94歳 | 死因2位 |
95~99歳 | 死因1位 |
100歳以上 | 死因1位 |
以上のデータから、80歳代以上になると老衰による死亡が増加傾向にあることがわかります。個人差はありますが、90歳代以上では老衰が主な死因になっているといえるでしょう。
老衰による「寝てばかり」の症状と他の原因との違い
老衰による傾眠傾向(寝てばかり)の特徴と進行
高齢者が寝てばかりいる(傾眠傾向)のは、老衰の前兆の1つと言えます。老衰により脳機能や体力が低下すると、覚醒している時間が短くなります。
周囲が話しかけたり肩を叩いたりして覚醒を促しても、すぐにまたぼんやりしてしまうでしょう。徐々に四六時中眠そうな様子が増え、次第に深い眠りに落ちるようになります。
最終的には一日のほとんどを寝てばかりで過ごすようになるのが一般的です。段階的な機能低下により意識を正常に保てなくなり、活動性や活動時間が短縮するのが老衰の特徴です。
認知症、薬の副作用、脱水、慢性硬膜下血腫など他の原因との比較
高齢者が寝てばかりいるのは、老衰以外にも様々な原因が考えられます。
- 認知症:夜に目が冴えて日中に眠る「昼夜逆転」が起こり、日中はウトウトしがちになります。
- 薬の副作用:一部の薬には眠気の副作用があり、内服薬を確認する必要があります。
- 脱水:脱水により意識レベルが低下し、ぐったりしたり眠り込んだりします。
- 慢性硬膜下血腫:頭部打撲後に血腫ができ、脳を圧迫することでウトウトする症状が出ます。
このように、老衰以外の要因でも傾眠傾向を引き起こす可能性があるため、しっかりと見極めることが大切です。
老衰以外の原因が疑われる場合の対応方法
「寝てばかり」の状態以外にも体調の変化や気になる点がある場合は、かかりつけ医に相談してみましょう。
認知症が疑われる場合は専門医の診察を、薬の副作用なら薬剤師に相談するのがよいでしょう。脱水や慢性硬膜下血腫の可能性があれば、速やかに医療機関を受診することが大切です。
老衰による傾眠なのか、他の原因が潜んでいるのかを見極め、適切な対応をとることが重要です。気になる症状があれば、早めに専門家に相談し、適切な診断を受けましょう。
老衰のその他の前兆と症状
食事量の減少と体重減少
老衰が進行すると、食欲不振や体重減少がみられるようになります。胃や腸、膵臓など消化管の機能低下により、スムーズに食事ができなくなるのです。また、活動量の低下に伴い1日の消費エネルギー量も減少するため、食欲が低下してしまうのです。
加えて、噛む力や飲み込む力の低下により食事に苛立ちを感じることで、さらに食欲不振が悪化します。老衰による傾眠傾向がある方の場合、そもそも食事の時間に起きていられず、食事の機会を逃してしまうこともあるでしょう。
老衰による食事量低下は、長期的にみても改善が難しいのが特徴です。風邪や胃腸炎など一時的な疾患であれば、数日から数週間程度で食欲は回復するはずです。しかし、老衰が原因の場合はそうはいきません。周囲から見て「食事量が減った」「前は好きだったものを全く欲さなくなった」などの兆候があれば、注意が必要です。
食事量の低下とともに、体重減少も老衰の前兆の1つです。食事量の減少と消化吸収機能の低下により必要な栄養が取れなくなり、体重減少が進行します。加えて、活動量や運動量の低下による筋肉の減少、内臓の萎縮、骨密度や体内水分量の低下など、様々な要因が重なって体重減少に拍車をかけるのです。
ある研究では、「死期の半年前よりやせが顕著になる」との結果が示されています。急激な体重減少、体格の縮小、以前着ていた服が緩くなるなどの兆候があれば、老衰を視野に入れる必要があるでしょう。
活動量の低下と筋力の衰え
老衰が進行すると、活動量や運動量が徐々に低下していきます。日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)が次第にできなくなり、家の中での動く範囲も狭まっていくのです。外出の機会が減り、家の中でも寝てばかりになることで、さらに活動量は減少の一途を辿ります。
活動量の低下は、筋肉量の減少を招きます。筋肉量の減少は、体重減少にも直結するのです。老衰による筋力の衰えは、転倒や骨折のリスクも高めてしまいます。僅かなきっかけで転倒し、寝たきりになってしまうケースも少なくありません。
加えて、関節の可動域制限や関節痛、四肢のしびれや痛みなども老衰に伴う症状としてよくみられます。痛みやしびれがあると、本人はますます動こうとしなくなるため、活動量の低下に拍車がかかるのです。
周囲から見て、「動きが鈍くなった」「外出しなくなった」「ふらつきが目立つようになった」などの変化があれば、老衰の前兆の可能性を考慮すべきでしょう。
内臓機能の低下と体温調節能力の低下
老衰が進行すると、心臓や肝臓、腎臓などの内臓の機能が低下します。全身を巡る血流量が減少し、臓器への酸素や栄養の供給が滞るようになるのです。
例えば心機能の低下があると、息切れやむくみ、疲れやすさなどの症状が現れます。肝機能の低下では、倦怠感や黄疸、出血傾向がみられることがあります。腎機能の低下では、尿量の減少や浮腫、かゆみなどの症状が出ることがあるのです。
こうした内臓機能の低下は、食欲不振や体重減少、活動量の低下にも関与しています。新陳代謝が滞ることで、体力や気力が徐々に減退していくのです。
また、体温調節機能の低下も老衰の特徴の1つです。暑さ寒さを感じにくくなり、脱水や熱中症、低体温症を起こしやすくなります。わずかな病気をきっかけに状態が悪化しやすいため、周囲のサポートが欠かせません。
血圧や体温、脈拍などのバイタルサインの変化や、むくみ、息切れ、黄疸など内臓疾患を疑わせる症状がないか、日頃から注意深く観察することが大切です。体調の変化を見逃さず、早めに医療機関を受診しましょう。
老衰で寝てばかりの方へのかかわり方と注意点
会話や穏やかな言葉かけを大切にする
老衰で寝てばかりになってしまった方に対して、家族ができることの1つが会話の時間を持つことです。最期のときまで悔いなく過ごせるよう、手や体をさすりながら、今までの感謝の気持ちや思い出を語り合いましょう。
本人が覚醒しているタイミングを見計らって、伝えておきたいことを話すようにしましょう。また、死期が近く身体機能が衰えていたとしても、聴力は最後まで残るといわれています。
そのため、本人との会話では優しい言葉かけを心がけ、たとえ意識レベルが低下しているときでも、穏やかでポジティブな言葉を使うことが大切です。
室内環境を快適に保ち、転倒・転落に注意する
老衰の進行とともに、徐々に自分の意思をスムーズに伝えるのが難しくなります。本人も家族も穏やかに過ごせるよう、快適な室内環境を保つことが重要です。
具体的には、うるさくないか、温度や湿度は適切か、寝具は適切か、マットレスや椅子の座面の硬さは適当か、直射日光や空調の風が本人に当たっていないかなどの点に注意しましょう。本人の目線になって周囲の環境を確認することが大切です。
また、身体能力の低下と意識レベルの低下に伴い、ベッドや椅子からの転倒・転落のリスクが高まります。ベッド柵の設置、すべり止め付の靴下の着用、ベッド周囲のスペース確保、つまずきやすいものの撤去など、生活範囲を見直すことが必要です。
身体の清潔を保ち、飲み込みやすい食事を提供する
活動量や意識レベルの低下とともに、自分で清潔を保つのが難しくなります。本人の身体の状態や体調に合わせ、体の清潔を保つ手伝いをしましょう。
本人がしっかり覚醒しているときは入浴の手伝いを、覚醒度が低いときは清拭を行うなど、体調に合わせて無理のない方法を選択することが大切です。特に口腔内の清潔は毎日欠かさず行いましょう。
また、老衰により食事摂取量が低下しますが、咀嚼や嚥下機能の低下により誤嚥のリスクもあるため、飲み込みやすく、無理のない量の食事を提供することが重要です。
食事は柔らかく煮る、食べやすい大きさに刻む、汁物でむせるときはとろみをつけるなど、本人の身体状況と好みに応じて工夫しましょう。食事が全く摂れなくなった場合は、特別な処置はせず自然のまま見送るのが一般的です。
老衰で寝てばかりの方との関わりでは、本人の尊厳を大切にしながら、その方らしい最期が迎えられるよう、家族みんなで協力してサポートしていくことが何より大切なのです。
老衰に備えて今からできる準備
介護サービスや施設利用の相談先を確保しておく
老衰に備えて今からできる準備の一つは、介護サービスや施設利用の相談先を確保しておくことです。本人の状態やこれまでのサービス利用状況にもよりますが、お住まいの地域の保健センター(保健所)、地域包括支援センター、福祉課、かかりつけ医などに相談するのがよいでしょう。
訪問看護や介護サービスを利用している場合は、利用先に相談するのもおすすめです。前もって介護施設の利用や介護サービスを調整しておくことで、いざという時に慌てずに済みます。
また、看取りの際や死後の確認で医師の往診が必要になる場合があるため、かかりつけ医には本人の状態について早めに相談し、訪問診療の可否についても確認しておくことが大切です。
自宅での介護や看取りが難しいと感じる方は、介護の必要性や本人の希望、家族の状況などをケアアドバイザーに相談することで、その方にぴったりの施設を紹介してもらえるサービスもあります。最期まで自分らしく穏やかに過ごしてもらうためにも、まずはプロに相談してみるのがおすすめです。
本人の望む最期の迎え方や延命治療の意向を確認する
看取りにおいては、本人の意思を確認しておくことが何より重要です。どこで最期の時間を過ごしたいのか、どのような対応を希望しているのか、葬儀や埋葬に関してこだわりがあるのかなど、事前に確認しておくことが大切です。
ただ、心身の状態が悪化していく中で本人に直接聞くのは難しいものです。可能な限り、元気なうちから家族間で話し合っておくとよいでしょう。
老衰が進行して本人が寝てばかりの状態になると、意思を確認するのは困難です。エンディングノートや日記、遺言書など、本人の意思が記されたものがないか確認しましょう。
また、延命治療についても事前に本人や家族間で意見を統一させておく必要があります。いざ延命治療を受ける際には、本人は意識不明の状態で、家族がその場で意思決定することになるためです。
自宅で自然に最期を迎えるのか、あるいは点滴や経管栄養、酸素投与など積極的な処置を行うのか、具体的に想像して決めておくことが大切です。以前は食事が摂れなくなると点滴をする場合もありましたが、現在は医療処置が逆に苦痛を強めるとの見方もあり、老衰と判断される場合には積極的な対応を行わず見送るのが一般的です。
家族で看取りや葬儀への想いを共有しておく
老衰の前兆を知り、その方らしい最期を迎えられるよう準備するためには、家族間で看取りや葬儀への想いを共有しておくことが大切です。
たとえ老衰により寝てばかりになっても、最期のときまで「その方らしい」生活が送れると、残された家族にも後悔が残らず別れを受け入れやすくなります。そのためには事前の準備や相談が欠かせません。
家族や関係機関と協力し、旅立ちまでの大切な時間を家族で穏やかに過ごせるよう、今から話し合いを重ねておくことが重要です。
老衰死は病気での死亡に比べて苦痛は少ないと考えられており、意識レベルが低下してぼんやりした状態のまま眠るように息を引き取るのが一般的です。ただ、自宅で看取る場合は医師の往診があるのが望ましいため、かかりつけ医から在宅診療医を紹介してもらえないか相談しておくことをおすすめします。
老衰は誰にでも訪れる自然な過程ですが、事前の準備と家族の支えがあれば、穏やかで尊厳のある最期を迎えられるはずです。老衰の前兆を知り、今からできることを着実に進めていきましょう。
まとめ
老衰により寝てばかりの状態になった大切な家族に対しては、残された時間を穏やかに過ごせるよう、家族のサポートが欠かせません。会話や優しい言葉かけを大切にし、快適な室内環境を整えましょう。また、身体の清潔を保ち、飲み込みやすい食事を無理のない量で提供することも重要です。事前に介護サービスや施設利用の相談先を確保し、本人の意向を確認しておくことで、旅立ちの日までその人らしい最期を迎えられるはずです。老衰は誰もが通る道。家族で支え合い、大切な時間を過ごしていきましょう。

監修 角田(株式会社葬儀のこすもす)
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